乳がん術後のリンパ浮腫について (乳がんセミナー 虎の門病院編)

 

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リンパ浮腫

1、           定義 

国際リンパ学会では、リンパ浮腫は「an external (or internal) manifestation of lymphatic system insufficiency and deranged lymph transportと定義されている。つまり何らかの原因により、リンパ流が阻害され、タンパク質を高濃度に含んだ組織液が組織間に貯留した状態をリンパ浮腫と定義している。

 

2、病態生理

人間の身体の60-70%は水分であり、細胞内と細胞外に2:1の割合で分布している。その細胞外液は血液、組織間液、リンパ液に分類される。毛細血管の動脈側から漏出した水分、たんぱく質、電解質は、大半は毛細血管の静脈側に吸収されるが、一部はリンパ管に吸収され、リンパ流として静脈へ還流する。このタンパク質に富んだ体液がリンパ液である。リンパ管が機械的または機能的に閉塞したり狭窄したりするとリンパ流は停滞し、リンパ管内に吸収できなかったタンパク質が組織間に貯留する。すると、浸透圧により血管内の水分が組織間隙に引き込まれ浮腫を形成する。これがリンパ浮腫の実態である。

 

3、原因疾患

リンパ浮腫は、原発性(一次性)と続発性(二次性)に分類される。前者は原因が明らかでない特発性と遺伝子異常に伴う先天性とに別れる。後者はリンパ管の炎症や、腫瘍の浸潤、手術などによるリンパ流のうっ滞が原因となって浮腫が生じるもので、以下のように様々な原因疾患がある(表1)。

全世界的にはフィラリア症の占める割合が多いが、本邦では手術(リンパ節郭清)や放射線照射に伴うリンパ浮腫が多い。

 

4、分類

国際リンパ学会では、皮膚の状態によりリンパ浮腫を4つの病期に分類している。(表2)この他、片側性のリンパ浮腫に対しては左右差の程度による分類がある。

 

5、治療・対処法

 乳癌の術後などのStage0の段階では、StageI~IIIへの進行を防止するため、予防対策の励行が重要である。日常生活で、表3に記載したような心がけを行うよう患者への指導が必要である。

 StageI以降は従来、複合的理学療法(CDT)が有用とされてきたが、これのみでなく上述の日常生活での予防対策も併用していくことが重要である。リンパ浮腫に対する治療は、CDTに日常生活上の注意を含めて「複合的治療」または「複合的理学療法を中心とする保存的治療」と呼ばれるようになっている。

CDTは国際的に広く認知されている療法であり、以下の4つから構成される。

a.      用手的リンパドレナージ

皮膚面表面の浮腫液を深部のリンパ系に促すマッサージのことである。身体の末梢側から中枢側に向かって、手のひらを皮膚に密着させて表皮をずらすような感覚で行う。強く揉むと炎症が起こったり皮膚を傷つけたりすることがあるため、優しく軽く行うことが重要である。正しいドレナージ法を指導する必要がある。

b.     圧迫療法(写真1

目的は、リンパドレナージにより細くなった患部を細いままに維持することである。外から圧を加える事により、組織間に漏出してくるリンパ液の圧に対抗するわけである。これには、弾性ストッキングやアームスリーブの着用や弾性包帯によるバンデージが必要になる。日常生活でも使用していくため、着用しても苦しくなく動きに支障が出ないように、そして血流が途絶えるほどに強い圧をかけないように、適当な圧で使用することが重要である。

c.      圧迫した上での患肢の運動

患側を安静に保つのではなく、弾性ストッキング着用やバンデージをした状態で無理のない範囲内で適宜な運動を行うことがリンパ流の促進に繋がる。

d.     患肢の清潔

皮膚の清潔と保湿を保つことで感染の予防となる。ここで、リンパ浮腫の際に最も気をつけるべき感染とは蜂窩織炎である。リンパ浮腫の状態では組織間にタンパク質と水分が過剰に貯留し循環が悪くなっており、僅かな細菌が侵入しただけでも繁殖しやすい環境を作っている。細菌が四肢に広がり強い炎症が起こる事で、血管壁の透過性が亢進し、さらに浮腫が増悪する。臨床所見上は、皮膚の発赤の出現と疼痛を認め、発熱を伴うこともある。蜂窩織炎の治療は患肢の挙上と冷却、抗生剤の投与である。再発が多いため、十分な抗菌薬治療が必要である。

 

以上のように、治療の基本は保存的治療であるが、悪化を防止できず象皮症になってしまった場合や保存的治療抵抗性で日常生活に支障がある場合は、外科的治療(リンパ管静脈吻合術など)を考慮する。

廣田彰男先生のリンパ浮腫のページ



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