乳がんQ/A〜雑誌原稿より
 
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Q1  先日、検診で乳がんが疑われ、その後の針生検でがんと診断されました。左の乳房内に腫瘍が2つあり(それぞれ2センチ、2・5センチほど)、さらに離れたところに1つ、がんらしい腫瘍があるとのことでした。再発の危険性を考えると乳房温存手術はあまりすすめられず、全摘出手術がよいだろうと、主治医に言われています。

 このような場合、全摘出手術しかないのでしょうか。温存手術ができる条件はどのように定められているのでしょうか。また、リンパ節切除は必要でしょうか。(55歳 女性)

3箇所に病変があり、そのうちのひとつが離れた場所にあるということなので、乳房全摘の判断はおそらく妥当かと思われます。乳房を温存できるかどうかの判断は、腫瘍を手術的に取りきったあとに美容的な乳房が残せるかどうかが基準になります。仮に3つの腫瘍があってもまとまった場所にあれば乳房温存手術も可能になります。しかしながらかなり離れた場所にあると美容的な乳房を残すことが困難になります。また多発するタイプの乳がんは乳管に沿って乳房内を広汎に広がる傾向があるのも不利な条件になります。術前に抗がん剤を投与して温存療法の可能性を高める方法もありますが、腫瘍の位置関係が変わるわけではないのでこの方の場合はこのアプローチはそれほど有効ではないだろうと思われます。ただ実際には診察してみないとわからないこともありますから、手術法に関して十分な納得をしたいのであれば、セカンドオピニオンを求めることをお勧めします。

リンパ節に関しては術前検査で明らかなリンパ節転移がなければセンチネルリンパ節生検法を行うことが一般的になってきました。センチネルリンパ節生検法とは手術中に最も転移しやすいリンパ節を調べて、これに転移がなければその他のリンパ節を切除しない手術法で、術後の患者さんの後遺症が従来の手術より格段に軽減されています。通常の乳房温存手術の患者さんの場合はセンチネルリンパ節生検法を用いることお勧めしますが、乳がんが広い範囲に多発する場合のセンチネルリンパ節生検の適応に関してはセンチネルリンパ節の決定が不確実で危険と考える意見もあります。新しい技術には不確かな部分も多々ありますので、リスクとメリットの説明を受けた上で、どうされるか最終的には判断されればよいでしょう。

Q2  1年前、右胸の乳がんと診断され、全摘出手術を受けました。その後はホルモン療法を受けています。  現在、乳房の再建手術を考えているのですが、どのような方法があって、費用はどれくらいかかるのでしょうか。また、通常、手術後どのくらいの期間をおいてから行うのが望ましいのでしょうか。(44歳 女性)

全摘手術を受けられたあと、40代の方で抗がん剤を行っていないようなので、おそらくリンパ節転移なく、比較的再発のリスクが少ない患者さんと思われます。乳房再建にはインプラント(人工乳腺)を使う方法と筋皮弁(自分の組織の一部)を使う方法があります。手術自体はすぐに行うことができますが、たちの悪い再発が術後2〜3年以内に起こる事が多いため、この患者さんのように二期再建を選ばれるなら術後2〜3年が経過してから再建を行うのが現実的と思われます。ただ腫瘍の条件がよい方、すなわち再発しなさそうな方の場合は、半年程度を目処に再建手術を行うこともあります。手術法は現在の傷の状況、患者さんの体型、左右のバランスなどを総合的に判断してもっとも適切と判断される方法を決めます。費用に関しては保険でカバーできる部分と保険の適応外になる部分があります。筋皮弁法(腹直筋、広背皮弁術)や乳輪乳頭を反対側から移植する手術は保険適応となりますが、インプラントを使う手術は自費になります。このため保険適応でかつ費用の一定上限を超える部分が還付され格安でできる場合と、自己負担がすべて含めると100万円程度となる場合など、かなり幅があります。通常何回かの手術を含めた処置が必要になり、またトラブル(手術合併症)が起こった時の費用をどうするかという問題もありますから、初回の手術代、材料費だけではなく、細かい部分も事前に確認しておく必要があります。乳がんの初回手術のようにある程度の時間の中で決断しなければならないというプレッシャーはありませんから、体験者の話を含めたさまざまの情報を集め、形成外科医のセカンドオピニオンも十分とって納得の行く形で話しを進めていかれるとよいでしょう。

Q3  乳がん検診についてお聞きします。私は三人姉妹の三女です。いちばん上の姉(33歳)が乳がんになったこともあって、年に1回ほど、乳がんの検査を受けるようにしています。ただ、私が受けているのは視触診だけで、長姉からは、それでは不十分だと言われています。  それで、マンモグラフィーを受けてみようと思っています。これは、具体的にはどのような検査で、有効性はどの程度あるのでしょうか。  また、20代にはマンモグラフィーよりエコー(超音波検査)のほうががんが見つかりやすいと聞いたことがあるのですが、本当でしょうか。エコーも受けるべきでしょうか。(26歳 女性)

乳がんに罹患するリスクの大きさを基にして乳がん検診の必要性は決めらますが、どこまで検診を行うべきかについては立場によって意見が異なってきます。個人のレベルでは最も質の高い検査を定期的に若いうちから行うことが望ましいと思われるでしょうし、行政の立場からすると、リスクの高い方に限って、できるだけ安価な検査で行うことが、税金の有効利用という観点からは正しい選択でしょう。

行政が行う乳がん検診は経済効率が重視され、通常40歳〜50歳から検診をスタートさせます。ただ、乳がんの家族歴が濃厚な方は25歳から、視触診とマンモグラフィー(乳房をはさんでレントゲンを撮る検査)を年1回の頻度でスタートさせ、自己検診も徹底させ、場合によっては乳房のMRI検査を考慮するということがNCCNガイドライン(アメリカの代表的なガイドラインのひとつ)などには記載されています.

さてこの方が個人的に検診を受けられるという観点でアドバイスをするなら、まず診察した上で超音波検査とマンモグラフィーを行い自己検診法を指導します。そして1年毎に、視触診と超音波検査をお勧めします。20代後半の方で通常の体型だと、マンモグラフィーはよい写真が撮れないことと、放射線被爆の問題もあり超音波検査の方が適していると思われます。ただ体型や背景因子にも大きく左右されますから個別の対応が望ましいと思われます。

2007年1月:雑誌原稿より


Q1 5年前に左乳房の外上部に1センチの腫瘤が見つかり、乳がんと診断され、温存手術を受けました。病理検査の結果、リンパ節転移はなく、放射線治療は必要ないとのことで、ホルモン療法を受けてきました。手術後、最初の2年間はリュープリン(一般名 酢酸リュープロレリン)の注射を、3年目からは飲み薬のノルバデックス(一般名クエン酸タモキシフェン)を服用してきました。手術前は生理がありましたが、手術後、リュープリンの注射を受けるようになってからはありません。今年の夏で、手術を受けてから5年経ちます。主治医からは「5年経過したら、ノルバデックスの服用を中止する」と言われています。再発の不安はいつも持っています。手術を受けて5年以上経てば、ノルバデックスを内服する意味はないのでしょうか。また、5年経過した後、再発を防止するために内服する薬や治療はないでしょうか。(長野県 48歳 女性)

詳細に関して不明な点もありますが、結論から申し上げるとホルモン療法を5年で終了し、経過観察でよいのではないかと私は考えます。1cmの腫瘍でリンパ節転移がなく、これまで5年間ホルモン療法をやっておられます。手術時43歳という年齢を考えれば放射線治療を追加することが標準的ですが、ここでの本題ではなく、また今更照射することはないのでこの問題は省略します。
この御質問をよく読んでみると、医学的な疑問というよりも、このまま何も治療することがなくなってしまうこと自体がご本人にとって不安なのではないかと思われます。そうしたお気持ちは良く理解できますし、そのような訴えを耳にする場面は実際に何度もあります。ただホルモン療法にも副作用、たとえば骨粗しょう症の進行や子宮体がんの増加などのデメリットもあるためむやみに治療を継続することが安心、安全なわけではないことを理解していただく必要があります。 
一般的にはホルモン療法は5年間で終了することが標準的ですが、ノルバデックス終了後にさらにアロマターゼ阻害剤(商品名フェマーラなど)を追加すると再発率が低下するというデータもあります。このため実際の方針を決めるに際しては、腫瘍の病理学的な異型度やHER2蛋白の増幅の有無などの腫瘍の細かい条件を考慮した上で、ホルモン療法を継続することで得られるメリットとデメリットを総合的に判断する必要があります。手術後かなり時間がたっても治療法が変わるという節目には何かと不安な気持ちに襲われるものです。もう一度主治医と話し合って今後ホルモン療法を継続するにしても、治療を打ち切るにしても気持ちの整理をしておくことが必要でしょう。

Q2 2004年12月に左乳房の乳がんで、全摘手術を受けました。がんの大きさは1・7センチ、リンパ節転移はなく、悪性度はグレードは1、ステージは1a期で、ホルモン受容体は2+でした。2005年1月にノルバデックスとゾラデックス(一般名 酢酸ゴセレリン)のホルモン治療を受けました。 同年8月に子宮筋腫の手術を受け、子宮と卵巣を全摘しました。同年9月にはノルバデックスだけの治療を受け、2006年10月からはアリミデックス(一般名アナストロゾール)による治療に変わりました。お伺いしたい点は、腫瘍マーカーのCEAとCA15−3の数値についてです。次のような経緯を辿っています。
CEA CA15−3 
2005年10月 2・0   4・7
   11月 2・0   4・7 
2006年 2月 2・0   5・1
4月 1・9   4・5 
 6月 2・3   4・8 
 9月 2・2   5・1 
  12月 1・4   6・3
主治医からは「正常値だから心配ない」と言われましたが、去年12月のCA15−3は微量ながら増加していて、不安です。また、「正常値でも4回も腫瘍マーカーが上昇するのはおかしい(何かある)」という医師のコメントを雑誌で読んだこともあります。心配ないでしょうか。また、何かすべきことはあるでしょうか。(東京都 47歳 女性)

結論から申し上げると腫瘍マーカーの数値は問題ありません。CA15-3の値は30程度までは正常で、それまで5であったものが突然15になっても意味はありません。このあたりは心配のしすぎとしかいいようがありません。物事に関してどんなに勉強して、知識を深めても実際の現場経験がないとわからないことは多々あります。今回の腫瘍マーカーの推移に関しては現場経験のある人間からするとまったく問題ないと確信がもてます。ただそれを一般の方、特に再発の問題に過敏になっている人に心の底から理解してもらうのは難しいことです。こうした問題は患者さんの気質のみならず、主治医の説明の仕方、主治医の性格なども背景にはあるとおもいますが、あまり神経質にならず、おおらかな気持ちでデータを流すことも大事です。個人的にも神経質な患者さんにはあまり生データ(実際の細かい数値など)をお教えしない方がいいのではと思うこともあり、そのあたりの配慮をあえてすることもあります。もちろんそれが適切なことかどうかという議論はあると思います。
さらに話をすすめると、そもそも定期的に腫瘍マーカーを測定する必要があるのか、再発を早期発見しても患者さんの利益にならないのではないかという根源的な問題に突き当たります。いずれにしても、検査結果にあまり神経質にならず、なるようになるさというある種開き直った気持ちを持つこともこの病気と付き合っていく上で大事なんだろうと思います。

Q3 乳首(乳頭)から分泌液が出て、乳房に痛みとしこりを感じたため、病院に行って検査を受けたところ、乳頭腫(パピローマ)と診断されました。「良性の腫瘍なので、放っておいてよい」と言われましたが、心配です。本当に何の治療を受けなくても問題ないのでしょうか。また、がん化することはないのでしょうか。ちなみに受けた検査は、視触診とマンモグラフィー、それに細胞診です。(石川県 39歳 女性)

まず乳頭腫という診断が適切であれば、乳頭分泌などの症状が続かなければこのまま経過をみたのでよいと思われます。また一般的にはがん化するとは考えておらず、その意味でも特に切除してしまう必要はありません。ただ乳頭腫という診断をマンモグラフィー、エコーなどの画像診断と細胞診だけで確定させるのは意外に難しいものです。乳頭腫の組織像はいわゆる乳頭状病変といわれ、良性の乳頭状病変と悪性度の低い乳がんの乳頭状病変はしばしば病理の専門家でも意見が割れるぐらい鑑別が難しいこともあります。このため100%確実な方法ということであれば、やはり腫瘍を摘出する手術を行うことになりますし、それに準ずる方法としては、マンモトームや太めの針で針生検を行い病理組織学的な診断を行うことになります。ただ現実の医療ではあまり疑わしくないしこりを全部手術で摘出したり、太い針を刺して調べることが正しいとも言えませんので、そのあたりの振り分けが臨床医としてのセンスの問題になります。ご本人が現状に不安をもっているのでしたらやはりもう一度担当医と話しあう必要があるでしょう。その上で、針生検またはマンモトーム生検を行うかどうか決められればよいと思います。
なおこの方の場合、しこりがあることを前提にお話をすすめましたが、もしエコーで明確な腫瘍がわからないなら、分泌している乳管を造影検査や内視鏡検査で調べることになります。またいくら良性でも乳頭からずっと分泌物がでるようなら日常生活に困るため腫瘍を摘出する必要がでてきます。この場合外科手術を行う場合もありますが、乳管内視鏡を用いて体に傷をつけずに摘出する方法もあります。

2007年3月:雑誌原稿より


日本では年間約4万人が乳がんにかかっており、年々増加する傾向にある。 女性にとって乳がんは、直視するのがもっともこわい病気のひとつ。その理由は、「乳がん」=乳房全摘出というイメージに負うところが大きい。しかし、現実はかなり変化してきており、いまや乳房が残る治療のほうがスタンダードなのだ。そこで、乳がん治療の最前線はどのような状況であるのか、虎の門病院(東京都港区)乳腺内分泌外科部長の川端英孝先生にきいた。

 90年代くらいまで、乳がんにかかった場合、乳房全体を切除するか温存するかが大きな問題となった。しかし現在は、切除する範囲を小さくして乳房を残す「乳房温存療法」が主流となっている。「乳がんのタイプや進行度にもよりますが、患者さん全体のだいたい70%が温存療法です」(川端先生)。 つまり、乳房が残る人のほうが、圧倒的に多い。 さらに乳がんの治療を考える上で重要なのは、腋窩リンパ節をどの程度切除するのかということ。これについても、新しい検査法により、以前より確実に、リンパ節を広範囲に取り除いたほうがいい場合とそうでない場合が識別できるようになってきている。

そもそも乳がんはどこにできる?
乳房は、乳頭を中心に15〜20の乳腺腺葉が放射状に広がって並んでいる(イラスト1)。個々の乳腺は、それぞれ小葉に分かれ、乳管でつながっている。授乳期になると、乳汁が小葉にたまり、乳管を通って乳頭から出て行く。「がんはこの小葉や乳管内に発生し、それぞれ小葉がん、乳管がんと呼ばれます。そして、がんが乳管や小葉の中にとどまっているものが乳管内がん、小葉内がんで、これは非浸潤がんの段階。一方、乳管や小葉の壁を突き破って外側へ出てしまったものを、浸潤がんといいます」(川端先生)がんのステージでいえば、非浸潤がんが0期、浸潤がんは1〜4期まである(表○参照)。乳がん患者の8割近くは、1期か2期までの段階で見つかり、このステージの患者への治療法は、まず手術が選択される。

温存療法に適したがん
適さないがん
 乳がんの進行には二つのタイプがある。一つは、局所で浸潤して大きくなっていくタイプ、もう一つは乳管の中を伝わって広がっていくもの(乳管内進展)。「乳管内をはって広がっていくタイプは、たとえ0期で発見されても、温存療法は無理な場合があります。この場合、がんをすべてとるには、乳房を広範囲に取り去ることになり、これでは、術後、牋嫐のある乳房瓩鮖弔垢海箸むずかしいからです」(川端先生) 一方、局所で大きくなっていくがんは、比較的、温存療法が可能であることが多い。たとえかなり大きくなっていても、あらかじめ抗がん剤で小さくしてから手術をすることもできる。つまり、乳がんの場合、病気の進行度と手術の方法が必ずしも比例するわけではないのだ。早期でも、がんが乳房内に広範囲に広がっていれば、全摘出の適用となる。「温存手術として意味があるのは、摘出部分が乳房の3分の1にとどまるところまでです。ただ、患者さん本人が、かなり変形してもよしとするか、あるいはがんが多少残ったり再発する危険性があっても残したいと考えるがどうかで、温存できる範囲も変わってきます」(川端先生) 乳がん患者全体の中では、乳管の中を広範囲に広がるタイプは、だいたい25%くらい。残り75%は、がんが局所で大きくなるタイプだという。

乳がんの標準的な治療法とは
 乳がんには、大きく分けて3つの治療法がある。まず外科的な手術によってがんを取り除く治療法、放射線によってがんを死滅させる治療法、そして薬によってがんを抑える薬物療法だ。これらを病状によって組み合わせて、治療のプログラムが決められる。 外科的な治療法である温存療法は、放射線による治療とセットで行われる。まず、手術では、乳房のしこりを中心に周囲を1〜2冂度外側まで切除する方法が採られる。さらに、浸潤がんの場合、腋窩にあるリンパ節を切除し、転移の有無を調べる。どれくらいのリンパ節を切除するかは、がんの進行度により異なる。最近では、この段階で「センチネルリンパ節生検」(コラム参照)という検査を行う医療機関が主流となっており、がん細胞がリンパ節まで転移しているかどうかを術中に検索する。そして、手術後、放射線治療を追加する。これは、手術ではとりきれなかった微細ながん細胞が乳房に残っている可能性があるため。乳がんは、放射線が効きやすいがんのひとつで、これにより乳房内での再発を防ぐ。

より新しい治療法はどう判断する?
 前述の「標準的な治療法」に加え、近年では、健康保険が適用される内視鏡を用いた手術、さらに保険は不適用だが、手術せずに、超音波によってがんを焼き切る「集束超音波療法」、ラジオ波によってがんを死滅させる「ラジオ波熱凝固療法」などがある。手術によるダメージをできるだけ軽くできるのであれば、こうした治療法もよさそうに思える。このあたりをどう判断すればいいのだろうか。
「乳がんの内視鏡手術には、まだまだ多くの問題点が残されています。一番の問題は触診によって腫瘍の中心を確認することが難しい点にあるだろうと思います。こうした問題もあって、内視鏡手術を実施している病院はまだ少数にとどまっています。」(川端先生)。

 では超音波やラジオ波は?
「超音波やラジオ波というのは、いわば局所を焼いてがんを取り除く治療法。乳管を進展するタイプのがんには、治療として不適切と考えられています。乳がんは、局所で大きくなるタイプだと思っていても、切除した病巣を調べると、がんが端のほうへむかって延びていることがわかるケースがあります。これは手術をして初めてわかることで、超音波やラジオ波では、がんを残してしまいます」(川端先生)
ただ、これらの治療法でがんをすべて焼き切れる患者がいることも事実。そういう人をどう選別するのか。 「CTやMRIなどを用いて判断していきますが、確実に選別することはできません。したがって、そういう新しい治療法は、ごく初期の段階でがんが見つかり、その上どうしても手術をしたくないという人へのオプションと考えられています。現時点では、ある程度オーソライズされた治療法で治していくほうがいいでしょう」(川端先生) 

乳がんにかからないようにするには?
 先ごろ、乳がんと生理、体格との関連を調査していた厚生労働省の研究班が、「初潮が早い」「背が高い」女性は、そうでない女性に比べ、乳がんにかかるリスクが大きいという調査結果を発表した。リスクが、「初潮が14歳以下」は「16歳以上」に比べて4倍に、「身長160儖幣紂廚蓮嵜板148儖焚次廚鉾罎戞∧跳仭阿1.5倍になるというもの。
 だが、いまさら初潮の年齢や身長は変えられるものではない。リスクを自力で管理できない以上、こういう結果を告げられてもむなしい気もするが……。
「乳がんは、リスクファクターをあまり議論してもしかたないでしょう。乳がんに爐なりかかりやすい人瓩呂い討癲↓爐わめてかかりにくい人瓩呂い泙擦鵝みなさん気をつけたほうがいいということです」(川端先生)がんの予防には、,んにかからないようにする(一次予防) ∩甦の段階で発見して治す(二次予防) かかってからいかによい治療で治すか(三次予防)の3段階がある。
「乳がんの一次予防として現実的なことは、ホルモン補充療法を安易に行わないことぐらいだと思われます。それよりは、早期の治る段階で見つけることのほうが重要でしょう。そのためには検診を受けることです。経験則から言えば、40歳以上の人は、年1回、マンモグラフィとエコーを併用して受けるのがいちばん有用と思います。40歳以下の人は、エコー単独でいいと思います」(川端先生)

 現在の日本では、乳がん患者は、新しくてかつ良い治療法を取り入れる医療機関へかなり集中している。つまり、旧態依然とした治療法のままの医療機関は、どんどん淘汰されている。
「以前は温存療法を実施している施設が限られていましたが、今は日本全国どこに住んでいても地域のがん拠点病院などで、一定水準以上の適切な治療を受けることができます。特定の施設へ患者も医療者も集中し、レベルアップが図られるという動きがけっこうなスピードで進んでいます」(川端先生)とのこと。
 たとえかかったとしても、必要以上におそれなくてもいいようだ。

コラム
「センチネルリンパ節生検」とは

「センチネル」とは「見張り」という意味で、「センチネルリンパ節」とは、その名前のとおり、乳房周囲のリンパ節の中で、がん細胞がいちばん最初にたどり着くリンパ節をさす。
ここを切除してがん細胞がんみつからなければ、その先のリンパ節にも転移していないと判断され、センチネルリンパ節以外のリンパ節は残される。これにより手術の後遺症は格段に軽減される。
「この検査をするには、微量の放射性同位元素を用いることや、(手術中の)迅速診断など病理的なバックアップが必要となります。このため外科医の技術だけではなく、病院としての総合力が重要となります。」(川端先生)

2007年3月:雑誌原稿より



2008年1月:雑誌原稿より

マンモグラフィ検査と超音波検査の最新情報

乳がんの治療に関する考え方は、ここ1〜2年でも急速に変わっている。検査の状況も、ここ数年でかなり変わった。まずは検査について見ていこう。
虎の門病院の乳腺内分泌外科部長である川端英孝さんによると、数年前までは、しこりに気がつくなど、何らかの自覚症状を訴えて来院し、それがもとで乳がんが発見されるケースが多かった。ところが近年は、マンモグラフィ検査によって、乳がんが発見されるケースがとても増えているという。
マンモグラフィ検査とは、乳房を装置に挟んで圧迫し、X線撮影をする検査のことである。乳がんなどがある場合、石灰化病変が見 つかり、これによって、触診では見つからない小さながんが発見できることがある。マンモグラフィ検査は近年、自治体による検診や人間ドックに急速に導入されている。
ただ一方では、マンモグラフィ検査では見つけにくい乳がんもある。特に、20〜30代の比較的若い層には、マンモグラフィ検査よりも超音波検査(エコー検査)のほうが望ましいと聞くが、実際はどうなのだろうか。
「一般的には、20〜40代の人は、超音波検査のほうが乳がんを発見しやすいといわれています。若い層では、超音波検査で乳がんが発見されるケースが多いというデータはあるし、私も、個人的にそのような印象を持っています」(川端さん)。
ただ、超音波検査をすることで、乳がんが早期発見され、なおかつ死亡率も下がるといったレベルのデータはまだないという。だが、そもそも医学データには、根本的について回る問題があると川端さんは指摘する。
「医学データは、結果が出るまでに5年、10年、15年、場合によってはそれ以上の期間を要します。これは検診の場合も同様で、死亡率との相関関係などの結果がわかるまでには相当の期間がかかる。だから、たとえば今のマンモグラフィ検査に関するデータは1970年代のものだったりします。でも当時の装置と今の装置とでは、性能が大きく違う。リアルタイムのデータは出にくいのです」
さて、もう1つ大切なことは体型で、太り気味で、乳房が大きめの女性にはマンモグラフィ検査のほうが適している。やせていて、脂肪の少ない女性には、一般的には超音波検査が向いている。
乳がんの検査には、マンモグラフィ検査と超音波検査のほかに、視診・触診がある。これらの検査で乳がんが疑われる場合には、細胞診や組織診などの精密検査が行われる。
細胞診は注射器で腫瘍の細胞を取り出し、良性か悪性かを調べる方法である。細胞診は簡便ではあるが検査の確実性が劣るため、最初から組織診を行うことも多い。これは、太い針をがんが疑われる場所に刺して、その組織を調べる検査(針生検という)である。


進歩したMRI検査 ホルモン受容体と乳がんの関係
乳がんと診断されたら、手術法などを決めるために、CT(コンピューター断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像法)検査などが行われる。近年はとりわけMRI検査の精度が上がっているため、この検査の結果によって、手術などの治療計画が立てやすくなった。
女性ホルモン受容体の有無を調べる検査も重要である。そもそも、このホルモン受容体とはいったい何なのだろうか。
「ホルモン受容体は患者さん自身の特性ではなく、患者さんにできたがんの特性です。つまり、がんのタイプ。そのため、ホルモン受容体は乳がんの組織から調べます」(川端さん)
乳腺組織はエストロゲンという女性ホルモンによってコントロールされている。思春期になり、エストロゲンが増えると、乳房が大きくなる。妊娠・出産し、授乳するようになると、エストロゲンはいっそう増え、乳腺組織もさらに発達する。その後、年齢を重ねると、エストロゲンの量は低下し、乳腺は退縮、やがて閉経を迎える。このように、エストロゲンがなくなると、乳腺はしぼんでしまう。
乳がんは乳腺組織から派生した、いわば乳腺組織の分家、あるいは乳腺組織の変種ともいえるものだ。ということは、乳がんは乳腺に特有の性質を有している。つまり、エストロゲンが増えていると、がんは増殖するし、エストロゲンを断ち切ると、がんは減少する。乳がんのこの性質を利用したのが、抗エストロゲン剤などのホルモン療法である。ただし、すべての乳がんにホルモン受容体があるわけではなく、乳がん全体のおよそ7割にホルモン受容体があるといわれる。
ホルモン受容体のない、およそ3割の乳がんには、ホルモン療法はほとんど効かない。そして、このタイプの乳がんは、エストロゲンのコントロールからはもはや逸脱してしまっているととらえることもできる。



HER2受容体に異常があれば、ハーセプチンが功を奏す


乳がんの中には「HER2受容体」に異常が認められるものがある。HER2受容体とは、たとえれば、細胞のアンテナのようなものである。アンテナに、たとえば「増殖せよ」という命令が届くと、それが細胞核に伝えられ、核分裂を起こし、細胞は増殖する。乳腺細胞に「細胞を分裂させなさい、増殖させなさい」という命令が来たときだけ、乳腺細胞は増えていく。
ところが、このHER2受容体に異常があると、いわばアンテナが壊れ、常にスイッチが入ったような状態になり、命令が何も来なくても、勝手に細胞が分裂・増殖してしまう。
20-25パーセントほどの乳がんは、このHER2受容体に異常をきたしている。何の命令がなくても、細胞は勝手にどんどん増殖してしまうのだから、がん細胞の増殖スピードは、HER2受容体が正常な乳がんよりも速い。
HER2受容体の検査には、ハーセプテストとFISH法がある。 ハーセプテストは、乳がん細胞の表面に現れたHER2タンパクを免疫染色して検査する。HER2タンパクは0、1+、2+、3+の4段階に分けられ、0と1+は陰性、3+を陽性と規定している。
2+は陽性とも陰性ともいえない。ハーセプテストで2+と出た場合には、より精度の高いFISH法を行い、診断を確定する。ハーセプテストの2+をFISH法で調べ直すと、結局、2〜3割が陽性になる。 FISH法のほうが精度が高いのなら、初めからこの方法で検査をすればよさそうなものだが、FISH法はコストが高いため、原則としてハーセプテストが採用されている。
HER2受容体に異常が認められた乳がんには、ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)という分子標的薬が効果を発揮する。ハーセプチンはたとえれば、壊れて、常にオンの状態になったアンテナをオフにして、増殖しようとするがん細胞を抑えつける。このハーセプチンが登場して以来、乳がんの治療法は大幅に広がったと川端さんは言う。
ハーセプチン治療は、本稿の執筆時点では、再発した乳がんにのみ保険が適応されるが、今年の春ごろまでには、再発以外の乳がんにも保険が適応される見通しである。

新たな局面に入ったセンチネルリンパ節生検 

乳がんが最初に転移する可能性の高い腋窩(脇の下)のリンパ節を1〜2個だけ切除し、がんを調べる検査がある。これを「センチネルリンパ節生検」といい、近年では、多くの乳がん患者がこの検査を受けている。
リンパ節転移の有無はこれまで、乳がんの手術をする際に、同時に腋窩のリンパ節郭清(周りの脂肪と一緒に、リンパ節を切除すること)をして調べることが多かった。しかし、腋窩リンパ節郭清を行うと、リンパ浮腫や腕の違和感を訴える人も少なくなく、QOL(生活の質)のある程度の低下は避けられない。だが、センチネルリンパ節生検では、こうした後遺症はかなり軽減できる。
そのため、センチネルリンパ節生検が行われるようになったのだが、腋窩リンパ節郭清と比較した確たるデータはまだ出ていない。ただし、「再発する頻度は、従来の腋窩リンパ節郭清に比べ、特に変わらない」(川端さん)のが現状だから、センチネルリンパ節生検は勧められる検査といえるだろう。
これまでは、センチネルリンパ節生検の結果、転移が認められれば、ほかの場所にも転移がある可能性が大きいと考えられ、その後、リンパ節郭清が行われていた。この傾向は今も変わらないが、最近では、さらに議論が進み、センチネルリンパ節生検で転移が確認されても、必ずしも郭清する必要はないという意見も出始めている。
「センチネルだけに転移のある人が60パーセント程度というデータがある」(川端さん)というから、それらの人はリンパ節郭清をしても、そこには転移がないことになる。センチネルリンパ節生検を巡る考え方も、新しい局面に入ったようだ。

個別治療の時代に入った

 ごく大ざっぱに言えば、1990年代は抗がん剤の大量投与を目指した時代だった。乳がんは全身病であるという認識のもと、再発の可能性のある人には、抗がん剤を無差別に、かつ大量に投与する方向で完治を目指していた。しかし大量投与はあまり効果がなく、また抗がん剤の適応を広げすぎたのではという反省期に入ってきた。2005年5月のハーセプチンの劇的な再発抑制効果が発表されて以降は、がんの性質を考え、その性質に応じて、ターゲットを絞った治療をするように変わってきた。
すでに書いたように、ホルモン受容体がある人にはホルモン療法を、HER2が陽性の人にはハーセプチンを行うのが、近年の治療の主流になっている。これは、個々人の患者に応じた、オーダーメイド医療ともいえる。
とはいえ、抗がん剤治療もこれまでどおり行われている。抗がん剤治療は3種類、ないしは2種類の抗がん剤を併用する多剤併用療法が主流である。手術の前か後のいずれに行うかは、それほど治療効果に差はない。 乳がんにとって、抗がん剤治療は今でも重要な治療法だが、かつてのような「腫瘍径1cm以上の浸潤癌にはすべて抗がん剤治療をしたほうがいい」という考え方は、今はしなくなった。
以上のように、現在の内科的な治療は「ホルモン療法」「ハーセプチン」「抗がん剤」が3本柱といえる。 一方の治療の主役は手術、放射線だ。乳がんと診断されれば、原則として手術が行われる。では、どのような手術が行われるのだろうか。 「手術は、可能であれば、乳房温存療法を行うのが基本です。乳房を部分的に切除して、がんを取りきれるのであれば、原則として乳房の温存を行います。乳房の3割を切除してもがんを取りきれないと判断される場合には、全摘になります」(川端さん)
乳房温存療法を行った場合には、原則放射線療法を術後に行う。近年は3次元照射など、新しい照射法の研究が進んでおり、照射回数を減らしたり、照射野を絞ることで、より負担の少ない方法が導入されようとしている。また、全摘手術になった場合には、乳房再建を同時に行うことも後日行うことも可能である。
「多くのがんは治療後、5年経って再発しなければ、治癒したと考えられるが、乳がんは20年ほど経過を観察する必要がある」(川端さん)ことも、ぜひ覚えておきたい。



2008年4月:雑誌原稿より

Q1 骨転移の治療中にゾメタが中止に。今後の治療は?

 2004年12月、乳がんが発見されました。すでに脊椎に転移していて、まったく歩けませんでした。しかし、抗がん剤やアレディア(一般名パミドロネート)などの治療を受けて、歩けるようになりました。
 06年1月に右乳房リンパ全摘出手術を受けました。それ以降、ゼローダ(一般名カぺシタビン)とアレディア(途中でゾメタ=一般名ゾレドロン酸水和物に変更)の治療を受けていましたが、去年の12月からゾメタは中止しました。現在はゼローダのほか、鎮痛剤、便秘薬などを服用しています。
 胃、膵臓、腎臓、肝臓、肺などには今のところがんの転移はないが、PET検査などから顎の骨には転移しているだろうと言われています。右のわき腹、右の腰、右脚などに痛みがあります。
 ゾメタを中止したことと関連して、次の3点について伺います。
‖料澗里旅に何らかの変化が現れるでしょうか。
△んが転移して、溶解した骨の部位の状態に何らかの変化が現れるでしょうか。
9転移が加速する可能性はありますか。
 また、ほかに適切な治療法はあるでしょうか。(神奈川県 女性 75歳)

A 痛みや骨の変化が強ければ、リニアックによる放射線治療も

 初めに、ゾメタという薬剤について整理しておきます。 ゾメタはビスフォスフォネートという系統の薬で、この系統の薬には骨吸収を抑制する作用があり、骨粗鬆症の治療薬として広く用いられています。なかでも点滴薬であるゾメタは作用が強力で、乳がんなどの骨転移や、がんに関連した高カルシウム血症の治療薬として用いられています。
 アレディアはゾメタの一世代前の薬剤でかつては第1選択薬でしたが、ゾメタが保険適応になって以降はあまり使われなくなりました。
 ゾメタには主に、骨吸収を抑制し、骨転移によって骨が強度を失うのを防止し、骨転移による骨折、痛みの頻度を減少させる作用があります。このため乳がんの骨転移と診断された時点で、通常はゾメタの点滴を4週に1回程度のペースで開始します。この治療はがんが進行していても使い続ける場合が多く、多くの患者さんで何年にもわたって使い続けます。
 ゾメタに関する研究を見ると、ゾメタにはがんの進行を止める効果はなく、骨転移によって骨が溶けるのを予防する効果があると理解できます。このため中止しても、骨転移が加速することはなく、また、急速に骨が溶け始めることまでは考える必要はないと思います。変化はもっと緩やかで、2〜3か月程度の中止では、骨の強度にはあまり影響ないと思います。
 さて、質問内容からは、ゾメタを中止した理由が定かではありません。顎の骨に転移しているだろうと言われたようですが、ゾメタを中止したのは、転移ではなく、顎骨壊死を疑われたからではないかと推察します。
 顎骨壊死は、まれではありますが、ビスフォスフォネートの重篤な合併症で、ビスフォスフォネートを投与中の人が抜歯などの処置を受けると起きやすくなると報告されており、もし抜歯が必要な場合は、原則としてビスフォスフォネートをしばらく中止してから行います。顎の症状なり検査所見が、骨への転移か、薬の副作用か明確ではないため、念のためにゾメタを中止したのだと思います。
 ご質問の文面にはホルモン療法やハーセプチンに関する記載がないため、ER、PR、HER2のすべてが陰性のいわゆるトリプルネガティブといわれるタイプの腫瘍と推察されます。このタイプの乳がんは比較的、悪性度が高く、また薬物療法も抗がん剤中心にならざるを得ないため、治療の選択の幅が狭いことが難点です。今後は残された抗がん剤をタイミングよく使い、痛みや骨の変化が強ければ、リニアックによる放射線治療も考慮する必要があります。
 また最近、メタストロン(一般名ストロンチューム89)という静脈注射用の放射性医薬品が保険適応となったので、この薬剤による痛みの緩和治療も選択肢に入ると思います。

Q2 乳房全摘後、抗がん剤治療を受けた。放射線治療も必要か

 去年の7月に右乳房の乳がんと診断され、8月から約6か月間、術前抗がん剤治療を受けました。ホルモン受容体、HER2受容体は共に陰性でした。その後、右乳房の全摘出手術を受け、手術は成功しました。2個のリンパ節転移があると言われました。
 今後は放射線治療を検討していると言われましたが、抗がん剤治療と全摘手術を受けたのに、まだ治療が必要なのでしょうか。抗がん剤治療の副作用がかなりきつかったこともあり、これ以上の治療には不安な気持ちがあります。この放射線治療は受けたほうがよいのでしょうか。受けた場合のメリットとデメリット(副作用や後遺症)などについて教えてください。(新潟県 女性 53歳)

A 放射線治療の適応があるなら、考慮してほしい

 手術後の放射線治療は乳房温存手術とのセットで用いられるという印象が強いですが、乳房全摘手術後であっても、リンパ節転移が4個以上あったり、腫瘍が5センチ以上ある場合は、原則として胸壁に放射線照射を行います。こうした条件の患者さんは手術後の局所再発率が高いため、放射線照射を行ったほうが局所再発の防止とともに、生存率も向上するというデータがあるためです。
 また最近は、リンパ節転移が1〜3個の方でも放射線治療を行ったほうが治療成績の改善がみられるというデータも出ています。このため、今後はさらに乳房全摘後の放射線治療の適応が広がるかもしれません。なお、こうしたデータはまず手術を行うことが前提の話であり、術前に抗がん剤をやった方の場合はデータ不足で、これまでのデータから類推して治療法を考えることになります。
 さて、この方の腫瘍もQ1の方と同様にER、PR、HER2のいずれもが陰性のいわゆるトリプルネガティブタイプで、比較的、悪性度の高いタイプです。もともとの腫瘍の大きさ、組織学的異型度、核異型度、化学療法にどの程度反応したかなどの基本的な情報が記載されておらず、この点からも放射線治療をすべきかどうかはお答えしにくいのが正直なところです。
 放射線治療の功罪については、メリットとしては局所再発の予防と、10年生存率の改善が期待できるという点が挙げられます。デメリットとしては手術をした側の上肢のリンパ浮腫や、放射線性肺炎、皮膚の色素沈着や浮腫などが挙げられます。
 これまで半年間、抗がん剤治療を行い、さらに手術をした後なので、精神的にも肉体的にも疲弊して、これ以上の治療は不安だという心情は理解できます。しかし、ご相談者のタイプの腫瘍の治療はホルモン療法もハーセプチンも適切でないため、放射線治療の適応があるなら、もうひとがんばりしてほしいと思います。

ご質問の内容とははずれまが、最近、乳がんは遺伝子発現プロファイリングにより、1つの病気ではなく、少なくとも次の5つの異なった病気の集合体と考えられるようになってきました。luminalA luminalB basal-like normal breast-like HER2 positiveの5種類です。
 luminalタイプはホルモン受容体が陽性で、ホルモン剤に反応して経過が良好なタイプ、HER2 positive はたちは良くないが、ハーセプチンに反応するタイプ、basal-likeはホルモン剤もハーセプチンも効果がなく、あまりたちの良くないタイプです。basal-likeという分類はがんの遺伝子解析を行って調べなくてはなりませんが、トリプルネガティブ(ER,PR,HER2がいずれも陰性)と、われわれが呼んでいるものに概ね一致するようです
。 basal-likeは全体の10〜20パーセントの頻度でp53やBRCA1に遺伝子変異が多いとされています。抗がん剤であるプラチナ製剤や、また抗EGFR抗体であるセツキシマブが今後の治療薬として期待されています。
 なお、現段階ではリンパ節転移が陰性で、腫瘍径が小さいステージ1の患者さんもこのタイプの腫瘍の場合は、アドリアマイシン系とタキサン系の薬剤を併用した半年間の抗がん剤治療が術後補助療法として勧められています。



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